【INTERVIEW】朝霧重治 in池袋西武オンライントークイベント(MC:松原ゆり)

一般社団法人LIFE IS ROSEと西武池袋本店のコラボ企画「五感で旅する世界旅行」オンライントークイベントより、朝霧重治さんのインタビューをお送りします。MCはLIFE IS ROSE代表理事の松原ゆりが務めました。

MC:LIFE IS ROSE代表理事 松原ゆり(写真左)  ゲスト:株式会社協同商事 コエドブルワリー代表取締役社長 朝霧重治(写真右)

―松原:COEDOさんは、食材に対しての考え方が素敵だなと思います。

朝霧:「ビールは農産物だよね」っていう考え方がCOEDOに元々ありまして。埼玉県の川越地域は、江戸時代にサツマイモが関東で初めて栽培されるようになった農業的な伝統があるんですけども。その地域資産であるサツマイモが、昔は形が悪かったり大きすぎると、そのまま流通しないで廃棄されちゃったりしていたんですね。

日本にはサツマイモから焼酎を作るという世界でも唯一の珍しい食文化があります。サツマイモって”デンプンの塊”だし、アルコールを作ることができるので、サツマイモをビールのフォーマットで利用することは、とてもユニークな視点なのではないかということが、「紅赤 -Beniaka-」の発端としてありました。

COEDO 紅赤-Beniaka-

農業がプロダクトして全世界で楽しまれるようになってきいて、それはそれで楽しくて素敵なんですけれども、やっぱりそういうものが食べられたりとか、作られたことって宿命的な偶然なので。COEDOの場合は、川越の大地で私たちが農業に関わったことで、ビールにもサツマイモが使われるようになったのは、すごく自然な流れだったと思うんですよ。

後からご指摘いただいて、嬉しかったことがあって。ルノワールっていう言い方はその土地でないと成し得ないんです。例えばワインの個性とかいうところで、フランスの方はよく言われるんですけど、「COEDOにとってのノワールって紅赤 -Beniaka-だよね」って言っていただけたことがあって。その時にハッとしたんです。

今は「日本的なビールって何だろう?」とか、どうしてもそういう方向から入ってモノを拵(こさ)えてる視点が絶対的にあるんですけど、そういったものが当時はなくて、ただ純粋に川越の地域で農家さん達と一緒に仕事してたっていうのが「共同商事」の当社だからこその出逢いというか。そういう地域性を自然と身にまとうようになったのが、客観的に見て嬉しく思いました。

―ビールをたのしむ私達も、こうして地域のものを使っていることや、どこから来ているかが分かる事が楽しさに繋がっていると感じます。

そういうのって生産者とか作り手の人たちが、もっと知っていただけるように“語り部”のように伝えた方が良いことなんじゃかなって思ってます。特に日本は“以心伝心”というように、あんまり口に言わないで感じていただこうという文化があると思うんですけど、やっぱりコミュニケーションのスタイルもだんだん変わったり、多くの方が前提条件として絶対共有してるものっていうのが、どんどん多様な社会に変わっていってるから、今はそういうコミュニケーションのスタイルのほうが求められているかもしれないと感じています。

―COEDOさんは現在、日本は勿論とのこと世界に展開されていますね。

今、コロナ禍という状況が世界中で起こってる中で、なかなか海外のお客様にも会いにも行けないし。実際レストランとかバーとかで、本当に何も気にしないで楽しく飲むことが制約を受けてる時だから、ビジネスとしては本当に厳しい状況ではあるんだけれども。

僕自身が学生の頃からバックパッカーでぶらぶらしてたこともあり、あんまりそういう意味でボーダーとかを感じていないんですね。「飲みたい!」「すごく気に入った!」と言ってくれる人たちが、ビジネスベースでもユーザーベースでもいらっしゃったら嬉しいじゃないですか。それを提供しない理由は何もないので、世界とフラットに繋がっている感じです。

僕は「グローカル」という言葉が好きです。決して“COEDOが全世界どこでも飲めるように”っていう意味での世界展開では勿論なくて、小さなコミュニティーがモノを通じて繋がってるみたいな。ローカルとローカルが繋がって、お互いが理解し合う“架け橋”になるようになればと思っています。アルコールはという効果があると思うので。

―確かにそうですね!特にビールって楽しい場面でしか出てこないイメージがあるので、「みんなで集まって最初の乾杯は、やっぱりビールだよね!」みたいな。

ブルワリーをやっていて思うんですけど、ビールの定性的な個性として、人々をつなぐ力が確かにあるのかなと。カジュアルな感じでみんな仲良くなっていく。ボーダーを融合していく効果が、ミクロにもマクロにもありそうです。

―私もヨーロッパを周遊していたことがあるんですけど、ビールの特色が国によって違いがあると思いました。ビールを楽しむ文化って国によって違ったりはするんでしょうか。

そうですね。アルコールの身近さっていうことだったり、社会の中での位置づけは、それぞれの人たちが持っている文化として、ちょっと違うところは確かにありますよね。日本人にとってアルコールはすごく身近なものじゃないかと思います。例えば神事であったりで、神社仏閣でもお酒は自然と側にあるものでした。「食べながら飲む。飲みながら食べる。」「楽しいときでも、悲しいときでも飲む。」みたいな。そういう意味での身近さっていうのはあると思います。

日本の人たちは「酒の肴」という言葉があるように、どんな食べ物と相性が良いかみたいな感覚でお酒を楽しんでいたりしていますが、そういった「食中酒の文化」って、結構ありそうで案外ないんですよね。

国によっては、社会風土としてアルコールを飲むといったことがあんまり寛容ではなかったりします。「酒は宴会に飲むものだ」という位置づけで、日常的にはあんまり飲んだりしない事もあったり、民族によってそれぞれ文化があります。COEDOとしては海外の人にも、その地域毎にどんな生活のシーンでお楽しみいただける可能性があるのかな?ということを想像しながら活動しています。

―こちら(写真前方)に並んでる6種類のビールは、それぞれ全然違いますね。

そうですね。まず全部ラベルの色が違う。中身も違う。香りも違う。味も違うっていう。これがビールの、本当にいい意味で分かりやすい「個性」です。感覚を研ぎ澄まして利きビールをしないと、この微妙な差異は分からないってことはないんですね。「この色なんか面白いね」とか視覚的に気が付いたり、「あ、この香り好き」とか口元に近づけると明らかに香りが違ったり。そういうジャンルやカテゴリーのことを、ビール界では「スタイル」と呼んでいます。ただあんまりね、スタイルとか言うと「なんか難しいかも?」って思われるかもしれないので、「そういうやつだったんだなぁ」って後から思うくらいでもいいし、それこそハマってしまったら、そういうスタイルについて勉強していってもいいし。それはそれぞれの皆さんの“ビールとの距離感”で楽んでいただけたらと思います。

―私が初めてビールを飲んだ時に“苦い”って印象があったんですよね。「なんで大人たちは、こんなに苦いのを飲んでいるんだろう?」って思ったんですけど(笑)このビールの苦みっていつしか旨味に変わっていくんですよね。

不思議ですよね。苦味って生物の本質的には“危険信号”なんです。「これ苦いから食べちゃダメだ!飲んじゃダメだ!」とか、そういうものなんですね。ただ、人間だけは、どうもこの苦味という味覚にハマってしまったようで。これもさっきの文化の話とつながるんですけど、日本は“ほろ苦い”っていう食べ物の要素があるんですよね。

植物のえぐ味とか、苦味っていうのを楽しむ文化があるから、それを食べることへの耐性はあるんでしょうけど、東南アジアでは苦味が食材に取り入れられてるものが文化としてそんなにないので、やっぱり経験則として苦味っていうのがあまり得意ではない傾向があるような気がしますね。

例えば、緑茶とかと東南アジアに行くと、砂糖が入ってたりして、甘くされてたりするじゃないですか。それがビールのスタイルの好みに反映されているところもありますね。

―国によっても苦味の捉え方に違いがあるんですね。

面白いですよね。珈琲とかもそうですけど。繰り返しや経験を通して、「苦くても危険じゃない」って本能に刷り込まれていくのかもしれない。

そういう苦味とか珈琲の話が出たところで言うと今、クラフトビール界の取り組みとしてコラボレーションがあるんですけど、「あまり堅苦しくならず、お互いの知見を持ち寄って、それによって面白いものが生まれたら楽しいね!」みたいな感覚なんですよね。

例えば、僕は珈琲は好きで、毎朝自分で挽いて淹れたりしていて、水筒を入れて持っていくという生活習慣があるんですけど、その道のプロではないから珈琲のことは分からないんですね。でも、スペシャルティコーヒーの堀口珈琲さんから、「COEDOとビールを作ってみたい」というオファーをいただいて。

それで「珈琲×ビールって、どう?」って考えてみると、例えばこの黒いラベルの漆黒の理由は、麦をすごく深く炒ってローストしているからなんです。その香ばしさっていうのは「どういう味なんですか」と聞かれたときに、僕は「チョコレートとか珈琲のフレーバーがありますよ」と説明するんですね。「ってことは、珈琲入れたっていいじゃん!珈琲ビールやってみようよ!」って。それくらい結構クラフトビールの世界はすごく柔軟で有り難いし、作り手に委ねられているところが楽しいですね。

通常はダーク系のビールにその珈琲の要素があるからってことで、珈琲豆を漬け込んだりすることが標準的なレシピとして割と確立されてます。でも逆に、ビールが珈琲側に寄り添ったらどうなるんだろう?という想いで作られたのが「織香-Worka-」というビールです。ただこういうのは一期一会なんですね。何度も作らないので、出会っていただいたら、是非試してみていただきたいです。

―すこし前ですけど「人生醸造craft」という商品もありました。20代・30代・40代。50代など、いろんな年代の方に寄り添ったビールなんですよね。

人生醸造craft

「人生醸造craft」って聞くとみんな「ん?」って思われるかもしれないんですけど、これはNECさんのAIの技術とブルワリーがコラボレーションした事例でして。

過去40年間分のファッション誌のテキスト、画像データをAIが分析をして、例えば20代の方をビールという要素で表現したらどうなるか?っていうことを表現しているんですね。30代は、ファッションの要素としてブルージーンズが象徴的だということを、AIが情報として引き出してきたのでブルーの色合いになっています。

それに味わいとして、フルーティー・苦み・アルコール度数などをパラメーターとしてAIが出してくれるんですけど、そのままじゃビールにはならないんですね。すごく定性的なものだから。定量化された要素をどう実現するかは、人間しか決められないんです。

AIって人間の職業を奪ったりするようなネガティブな懸念がありますけど、決して怖いものじゃないんです。過去40年間分の雑誌のデータは分析はAIで、それを具現化するのは醸造家という棲み分けで人間とAIの共創がテーマになっています。

20代のピンクはハイビスカスで表現されていますが、他にもベリー系という選択肢も有り得ると思います。ピンクを何で表現するかは醸造家次第なんです。そこには、ブルワリーのバックグラウンドとかフィロソフィーも凄く関わっていて、COEDOは元々オーガニックの農業を1970年代からやってきた「共同商事」っていう会社のビールメーカー部門です。だから「ピンクだから赤色何号を使おう」とか「ブルーだから青色何号を使おう」とか。人工着色料をただただ安直に表現するためだけに使うってことは、やっぱりブルワリーとしてやりたくなくて。天然原料でなるべく意味がある要素として使っていきたいという想いでものづくりをしています。

―「LIFE IS ROSE」も少し似ているなと思いまして。「LIFE IS ROSE」はバラ色の人生を歩む人が、一人でも多くこの社会に触れたらなという想いでやっている団体ではあるんですけども、バラも本当にいろんな種類があって何万品種とあるんですよね。

バラも赤というイメージがあると思うんですけど、実は本当にいろんな香りがあったりなかったりして、このビールのお話と繋がるなと思いました。

―最後に。朝霧さんにとって「バラ色の人生」と何でしょうか?

自分で行動していることを実感する時に充実感があったり、明日が見えたりする。どの道を辿っていくのかを、自分が決めていくこと自体が「バラ色」だなって。やりたいこととか、好きなことがはっきりしていることはすごく「バラ色」ですよね。それは仕事だけでなくて、あらゆる事がそうだと思います。

ゲストプロフィール:
朝霧重治(あさぎり しげはる)株式会社協同商事 コエドブルワリー代表取締役社長 
1973年生まれ。埼玉県川越市出身。1997年一橋大学商学部卒。1997年三菱重工入社。 1998年協同商事に入社し、企画、新規事業、事業再編等を担当。 2003年協同商事の代表取締役副社長へ就任し、ビール事業再構築を開始。 2006年にCOEDOブランド発表。2009年より現職。

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