一般社団法人LIFE IS ROSEと西武池袋本店のコラボ企画『五感で旅する世界旅行』オンライントークイベントより、本間正人さんのインタビュー【後編】をお送りします。MCは上野俊介さんが務めました。
本間:ある講演で『先生、人間力って何ですか?』って質問が出たんですよ。いい質問でしょ?僕は「自己ベストを更新し続けること」とお答えしました。つまり、自分がやってきたことを卑下するのではなく、「こんなにやったぜ!」って自惚れるのではなく、自己ベストの記録っていうのをちゃんと認めた上で、これに甘んじることなく、「明日は・来週は・来年は」と、この上を目指そうとしている人は、“人間力の高い人”だと思う。それは例えば、英語力でもいいし、ビジネスのスキルでもいいし、人としての在り方かもしれない。そういうことに関して常に自己ベストを更新し続けている。そういう学習力を発揮する最新学習歴を構築し続ける人が、“人間力のある人”じゃないかなと、今考えています。
―上野:大人になってからの学びについては、どう思われますか?
まず基本的に“too never too late”=遅すぎるということはない。あなたの人生の中で、今日が一番若い日なんだから。大人になって学ぶとね、一番わかりやすいのは目的意識が明確。多くの生徒学生が『何のためにこの三角関数を学ぶんだろう?』『なんで等比級数の加法定理をやらなきゃいけないの?』って思う。でもね、みんなのスマホの中に入っているGPSは、三角関数の応用なわけです。あるいはお父さんお母さんが住宅ローンを持ってたら、等比級数の和の公式というのはめちゃめちゃ重要で、住宅ローンの利率が1.8%なのか2.0%なのか、この違いは大きい。だって35年ローンを組んだ日には何千万も額が違ったりするわけですよ。これってすごく切実な話なのに、座学の教科書の中で“リアルな世界”との接続はほとんど語られていない。だから、何のためにこの学びがあるのか?教科学習はどんなところで役に立つのか?っていうところを接続すること(=“キャリア教育”)を、もっと教育の現場の中に入れていくことが大切です。
僕が受け持つ大学の授業では、1コマ目に必ずやることがあります。クラス内で5人組を作ってもらってね、「英語ができると、どんな良いことがあるのか?5人で話し合ってください、どうぞ!」って。京都芸術大学だから、いろいろな学生さんがいますよ。『自分の作品を海外でプレゼンしたい』『映画が字幕なしで楽しめる』『友達がほしい』『恋人がほしい』『配偶者がほしい』…ちなみに結婚生活は、“日本人同士での異文化コミュニケーション”。これが一応話のオチなんですけどね(笑)。そういう意味で、何のために英語を学ぶのか?なんていうのも、答えは一つではなくて、しかし自分なりの「このため!」という目的意識を持って英語を学ぶ、数学を学ぶ、地理を学ぶと全然違いますよ。例えば、「自分はいつかアフリカでコーヒーの工場を建てる!チョコレートの工場を作りたい!」なんて思っている人が世界地理に学ぶとき、気合いが変わりますよね。
全ての人に共通したベストの勉強法は、世の中に存在しない。一人一人みんな似合う服が違うように、学び方もみんな違うんだけれども、全部おんなじ教え方になっているってことが、すごい無理が多いんだと僕は思ってます。“大人になってからの学び”っていうのは、「自分に似合う服が何なのか?」「自分が食べたい食べ物は何なのか?」「自分が学びたいことは何なのか?」っていう、その好みというのはだいぶ明らかになってきてるから、すごい能率がいいんです。会社勤めしてた大人、特に日本のサラリーマン戦士って言われてきた男性は、会社の中で人間関係が固定してる。飲みに行くにも遊びに行くにも、交友関係の種類が限られてくるわけです。学ぶことによって、新しい人間関係から自分の世界が広がっていく。そういう意味で“大人になってからの学び”というのは、1粒で3度4度美味しいというのがあるんじゃないかな。
―最後の質問です。本間先生にとって“バラの人生”でしたか?
僕はワークショップで「今年はあなたにとって何色でしたか?」という質問をするんす。今どんな人生を歩んでいる人も『これがバラ色だ』って自分で決めたなら、それが『バラ色』だって言っていいんです。人生を何色と決めるのかというのは、一人一人に与えられた能力であり、天から与えられたギフトだと僕は思うから。『私の人生、灰色だ』と思えば灰色の人生を送ることができます。“バラ色の人生”を送るっていうふうに決めれば、「この人生はバラ色だ」と決めれば、それが“バラ色”になる。きれいごと言ってるわけじゃなくて、現実っていうのは周りに存在するのではなく、実は頭の中に存在している。
だから一番典型的なのは、催眠をかられた人に「今あなたに熱いものが当たっていると」言うと、催眠状態で火傷するんですよ。実際には当ててなかったけど。つまり。現実というのは、実は我々の脳が作り出しているものなので、“条件が満たされたらバラ色になる”っていう性質のものではなくて、あなたが何をもってバラ色とするかを決めさえすれば、それはバラ色になるんです。もっと言えば“バラ色”っていうのは1種類ではないです。赤いバラもあれば、ピンク、黄色、紫もある。自分なりの色のバラでいいわけ『親が赤のバラが好きだから…』『先生がこの黄色いバラを薦めたから…』で人生を決めては勿体ないぞ!
自分が「“自分のバラ色”というのが何色なのか?」というのを決めることができる。人間にはそれができて、AIはそれができない。AIは与えられたコマンドを忠実に再現することはできる。何か「これ見つけろ」というコマンドが入ったら、膨大なビッグデータの中から検索することはできる。「でも自分でやってみよう!」「自分でこの人生を何色に染め上げよう?」ということを決めることはAIにはできない。だからAIと共生・共存していく社会の中で、これまで以上に「私は何がやりたいのか?」「何を目指すのか?」「どこに行こうとしているのか?」っていう問こそが、人間に与えられた天賦の才能なので、それを生かしていってほしいなと思うし、“あなたらしいバラ色”に染めてほしいなというふうに思う次第でございます。
ゲストプロフィール:
本間正人
京都芸術大学教授・副学長。NPO学習学協会代表理事。NPOハロードリーム実行委員会理事。1959年8月東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、松下政経塾第三期生として入塾し、松下幸之助の経営哲学を学ぶ。ミネソタ大学大学院修了(成人教育学博士、Ph.D.;戦略プランニング修士号、Master of Planning取得)。米国Coach University 課程を修了し、国際コーチ連盟(ICF)認定プロフェッショナルコーチ(PCC)資格(日本人初)を取得。松下政経塾在塾中に、国際連合国際青年年(IYY)事務局、内外政策研究会(大来佐武郎会長(元外相)秘書)での実務研修を経験し、地球社会の未来を建設的に提言する「ローマ・クラブの21世紀版」を創ることをライフ・ワークとして志す。(社)日本ユネスコ協会連盟評議員などの国際交流活動を通じて、グローバルコミュニケーターとしての力を磨いた。NHK教育TVでビジネス英語の講師などを歴任。