【INTERVIEW】岩崎泰三 in池袋西武オンライントークイベント(MC:金井明日香)【後編】

一般社団法人LIFE IS ROSEと西武池袋本店のコラボ企画『あなたが知らないコーヒー、教えます。~味覚で楽しむ世界旅行~』オンライントークイベントより、コーヒージャーナリスト・岩崎泰三さんのインタビューをお送りします。MCは金井明日香さんが務めました。 

―金井:泰三さんはコーヒーの豆を求めて、いろんな場所を旅されてましたよね。

岩崎:そうですね。色々な場所に行きました。コーヒーの産地って言うと、産地に行くプロフェッショナルっていうのがコーヒーの分野にはいるんです。いわゆる「買い付け専門」です。やっぱりそういう人たちにしかできないレベルの仕事があって。産地に行けば買えるってもんじゃないし、知識があれば良いものを見つけられるって訳じゃなくて、やっぱり長い時間をかけて現地の農家さんと築いてきた人間関係、信頼関係とかね。あとは本当に様々な知識が複合的な作用して美味しいものを見つけられる。安易に現場に行ったところで特に何も見つけられない。これは自分も最初に行った時に大いにそう感じたし、実際にそれに特化してるプロフェッショナルには全然敵わないですね。買い付けを専門にしているのが、日本のスペシャルティの世界だと、例えば丸山健太郎さんとかはご自身のコーヒーブランド持ってるけど、彼自身が現場のことをよく分かってて、ほぼ現地の方みたいなってますから。そのレベルの人たちと比べて仕事を取れるかというと、それはまずないので。ここはやっぱり違う付き合い方なんですね、産地とは。

産地に行くことはコーヒーマンにとっては間違いなく勉強になるので、それは絶対にやるべきことだと思うんですけど、ジャズを勉強している人は絶対にアメリカに行くべきだし。そういうことって、本場の肌で感じる空気感とかあるから行くべきなんですけど、僕はそういう自分の勉強のために行くっていうのがなかなか決断できなくて…遊びに行くのとどう違うのかなみたいな感覚は結構あって。ひょんな事から「他に行ってくれる奴いないか?」「どうしても付いて来てもらいたいんだけど、何とかならないか?」みたいな話が10年ぐらい前にくるようになって、それは僕が店を閉めてフリーランスでコーヒーマンをやっていた旅芸人時代ですね。だから真面目なコーヒー屋に相手にしてもらえないような”面白すぎるけど、儲からないかもしれない仕事”が声をかけてもらえるようになった時期がありました。最初に訪れたのはインドネシアの俺はロンボク島です。

―この写真は、、なんでしょうか?

これはね。猫ちゃんのアレですよね…池袋西武のこのフロアーに響き渡っちゃあれなので、皆さんお察しいただいて(笑)猫ちゃんは森に入ってコーヒーの木から完熟した美味しそうな実だけを摘んで食べるんです。それを自分の中で消化して、コーヒーだけ生成が終わった状態で出てくる。要するに皮と果肉を除去してコーヒーから種を取り出すのは、人間がコーヒーの生成工場でやってることと全く同じなんです。これを見てわかる通り、コーヒーしか食べてないので、香りもめちゃくちゃいいんですよ。そのままかぶりつきたくなるぐらい!しかもこれは朝6時ぐらい。朝日が当たって見晴らしのいい岩の上とかある。神々しいですよ。野生動物は夜活動するので、見晴らしのいいところでしか排泄しない。これはインドネシアでコピルアック、世界一高いコーヒーなんて言われてますけども、このコーヒーを研究している植物学の先生が『これコーヒーとしてビジネスにならないか?』「『誰かコーヒーのことがわかる専門家と山奥に調査に行きたいんだけど、誰かいないか?』って。そんなざっくりした話で、大手の商社さんは行けないからね。「それ面白そうだから行きまーす!」って言って、この植物学の先生の研究チームに加わって現場に行って見てきたんですけど、やっぱり衝撃でしたね…衝撃だった…

人間が農業やるのは自然から見てどうなのか?って思い知った旅でしたね。コピルアックの”ルアック”ってジャコウネコのことなんですけど、体内の消化酵素に香料の原材料となるいい香りを持っている特別な猫なんです。コーヒーの味が美味しそうだから食べてるってだけ、何の罪もない。でもコーヒー農園の人からすると害獣ですよね。自分たちは時間とお金をかけて作ってるのに食い荒らす訳ですから。見つけたら駆除しちゃ捕まえてきて、ゲージに入れて俺たちのために『コピルアックをどんどん作れよ!』って餌としてコーヒーを食べさせるってのがそこら辺で起こるわけですね。ただ、人間が農業をして森の恵みを享受しつつ、野生動物の健全に暮らせる場所っていうのはほんとに人間と自然のギリギリラインみたいな所に存在するんです。これは天然のコピルアックなんですが、天然のコピルアックはまさにボーダーラインにしかないんですよ。踏み込んじゃってると人間がルアックを捕まえちゃってるから野生ではいないんです。野生過ぎちゃうと、美味しいコーヒーがそもそも無いんです。本当にギリギリラインで、人間はどう自然と付き合うか。コーヒーってもちろん農業なので、そのおいしさは何によって生み出されてるのか?とか、もの凄い色んなことを考えました。

デビュー戦で相当高いハードルでしたけど、これを継続してもうちょっと勉強しなきゃいけないなって。3年続けて同じ山に入って調査して来たんですよね。インドネシアバリ島の隣のロンボク島、スンバワ島と往復して3年目の調査では、ホントに誰も入ったことないみたいなやばい山に博士と俺ともう一人若いコーヒーマンバリスタと3人だけのチームで、すげえいかつい武装したやつをガイドで雇って入るみたいなことをしたんですけど、その時のやばい探検写真もあるんだよね。その時に本当に山で遭難して死にそうになっちゃったので、一応もうこれ以上先に行くの日本人としてはやばいかなって。一旦旅は終了しましたけど、その模様を私のYouTubeチャンネルでガッツリ公開しますから、ぜひ皆さんチェックしてもらいたいですね。

―本当に手に汗握る動画でした…!

岩崎:山中で車が先にも後にも進められなくなって、これはもう雨が上がって天候回復待ち。「それいつですか!」みたいなね。ここから歩いて10時間、ジャングルの中を下山。水もないから生えてたサトウキビを杖がわりに持ってのどが乾いたら折って飲むみたいな(笑)

帯同した植物学の白石博士って方が現地で強いネットワークもっていて。現地の政治家とか有力者とすごい繋がりがあるので、あっちにこんなものがあるみたいな情報は全部集まっているんです。ここに行くにはどうしたらいいかというのが白い紙に鉛筆で線を引いただけみたいな地図で行くんです(笑)これでよくわかるよね…!みたいな。命がけでやった私のこのコーヒーの産物のね、旅の模様をまとめたYouTube動画は全然再生数伸びなくて…ショックだよね。これを見てくださってる方は何とかワンクリックしてもらいたいわ。そんなこんながあって、他の人が行けないようなニッチなコーヒー産地に行くことが多かったですね。あとはラオスですね。

―その地域によって全然ちがうんですよね、きっと。

全然違いますよ、産地によって。国によって全然違うってのは勿論あるんですけど、それは一般の買い付け師とかみんなどんどん発信されてるんですけど。私が見に行ったところって、まだ日本人が誰も来ていないので。例えばラオスのコーヒー農園も、『ボーラウェン高原の標高1300mラインに6,000ヘクタールの平地が発見された!』って言うんですよ。これってコーヒー界隈が大きく変わるんじゃないの?みたいな。『この土地これから全部コーヒーにするんだぜ!』みたいな話を聞きに行ってくるんですね。まだその時点で商売じゃないんですよ。コーヒー採れてから呼んでよ!って話ですけど、こんなテストの段階で関わらせていただいて。

去年行ったコロンビアとかも、日本で手に入るルートは限られてたんで、全然違うルートで海外から直接、今ダイレクトトレードって非常に盛んですけれど、直接現地の方とコミュニケーションをとって買い付けみたいなことで。誰も行ったことのない山の中をジープで6時間山に揺られてね。イカツい通訳と、自分で窓を開けられない防弾の車に乗せられたりね。だから、あんまり快適なコーヒーの旅はしてないんです。

―泰三さんのコーヒーを初めて飲ませていただいた時に「私の知らないコーヒーだ!」って感じて。この話を聞いていると、普段飲んでいるコーヒーだけじゃない世界がどんどん広がってるんだなって思いましたね。

ホント、その通りですよ。コーヒーの産地に行けば、それだけ新しい発見もあるし、これからも時間とチャンスがあれば産地を見ていきたいなと思うんですけど、それはあくまでも自分が感じられる感覚のチャンネルを増やすためなんですよ。それを見て、そこでいい豆だったから、いくらで買えば儲かるな?っていうマインドとはちょっと私の場合は違っていて、この人たちがここでこういう飲み方しているものを日本人が見たらどう感じるか?とか。例えば、千葉大門にある怪しげなバーね。あそこでこのコーヒーを入れるとしたら、どういう淹れ方をすれば、ワインを楽しんでいる人たちが一緒に並行して楽しめるかな?とか。やっぱりね、日本にないものって海外にたくさんあって。そういうものを実際に自分で体験して、感覚として取り込んでくるのはすごい重要なことです。

コーヒーを飲んで爽やかな気持ちになるとか、リラックスしてホッコリした気持ちになる。そういうのはあるじゃないですか。多分、みんなこういう感覚はあるんだと思うんですけど、もっともっとね、実はコーヒーは洗練させていくと、すごい具体的な景色が浮かんだりするんですよ。

例えば、ブラジルのフレンチローストに少し浅めに煎ったコロンビアを混ぜて、それを少しだけぬるめのお湯で淹れる。そうすると高原の朝みたいな味になるんです、少しウッディな。ウッディと言うとスペシャルティーでいうとネガティブな表現なんですけど、スギとかヒノキとか木の香りみたいなのが結構出てきたりするコーヒーってあるんですね。結構よくある話なんですけど、濡れた土の匂いに若々しい葉っぱの青い葉っぱの匂い、ログハウスで使っている新鮮な木材の飯舘のシダの香みたいな、そういうのをミックスされた香りを持ってるコーヒーって結構ね、素材としてはいろんなところにあるんですね。それを楽しむためには、この道具でこのぐらいの温度でこのぐらいのスピードで淹れて、こういう器で飲めば、そういう疑似体験できるっていうセッティングは結構いろんなコーヒーにできるんですよ。突然『こいつ何言ってるんだ!?』感出てないか心配ですけど(笑)

コーヒーって1口飲んだ時に、”あの日の軽井沢の朝”みたいな。これは”沖縄のあのビーチの感じを思い出す”みたいなトロピカルな感じのがあってとか。それをもっともっと引き立てるためには、もうちょっとこういう淹れ方したら、太陽が下がってきて夕焼けっぽい雰囲気でるなとか、コーヒーの味もそこまで調整できるんですよ。それをやろうしてる人があまりいないように僕は感じますけど、やってみると意外と太陽高過ぎるから、もうちょっと夕暮れにしてこのカクテル飲みたいな、みたいな調整を、温度の調整、メッシュの調整、もちろん抽出の器具を変えることによってできるんですよ。

―名前の違いとかだけではないんですね。

そうそう。コロンビアを飲んだらコロンビアっぽい気分になるっていうのはちょっと違っていて。コロンビア行っていない人はコロンビア感味わえないですよね。そういうことじゃなくて、それぞれのコーヒー豆の品種が持っている特徴とかね。栽培された標高が持っている特性とか。例えば、高標が高のものは酸味が強くでたりするけど。あとはそれをどうやって焙煎するか。いろんな要素の組み合わせでコーヒーの味ってできているので、エチオピアを飲んだらエチオピア感でるとも限らないです。エチオピアを飲むことによって、エキゾチックなベネチア感出るみたいなそういうことも生まれてくるんですね。

例えば、コーヒーの品種でいうと、ロブスタというちょっと過激なコーヒーの品種があって。カフェインの量がアラビカの2倍ぐらい入っているコーヒーがあるんですけど、ロブスタってのは嫌われがちなコーヒーなんですけど、そのロブスタだけが蘇らせる人間のDNAに刻まれた記憶みたいなのがあって。100グラムの中で5グラム。5%くらいちょっとロブスタを混ぜておくと、飲んだ時に、本当に懐かしい。あの時のおばあちゃんの家を思い出すみたいな。そうやってね。人間の記憶のところに入り込む味と香りを作れる。

これは音楽家だったら簡単だって言うと思うんですけども、夕暮れの田舎の雰囲気を出したければ、そういう声質で、そういうコードでそういう音を出せば、人間は想起するじゃないですか。音ってダイレクトに感じるから景色とか記憶と結びつきやすいんですよね。音楽ってどんどん広がって裾野も広いんですけど。実は味覚っていうのもほとんど同じ効果があって。あの時のあの景色とか、あの時食べたあのステーキだなとか、ジューシーな生ハムじゃんみたいな。コーヒーを飲んだ時にそういう記憶がよみがえったり。行ったことないはずなのに、入ったような気持ちになるんです。人間の理屈では処理できない感覚の部分に、コーヒーの味と香りって直接アクセスすることが、僕は実体験として結構何度もそういう経験しています。自分で意図的にコントロールして、今日はものすごい疲れてるから究極の癒しだと。モコモコの綿の中にくるまれてるみたいな感じで、しばらくぼんやりしようをみたいな時は、やっぱりそれ専用のブレンドを自分で作って淹れます。

―デザインしていく訳ですね。

デザインしていきますね。絶対必要なのは、エチオピアになっているでしょ。ホンジュラスとか中米の中でちょっとクリーミーで柔らかい中煎りをものすごい粗びきにしてゆっくり入れる。抽出量も120CCとしたら100CC抽出して20CCお湯を入れて。ちょっとスプーンでかき混ぜて泡立てる。そうするとモコモコの中で寝てるみたいな感覚が体験できるとか。俺が変態だだから言ってんじゃなくて、本当にそういうことが起こるんですよ。

―たしかに、初めて飲んだはずなのに、めっちゃ懐かしい!っていう感覚がありました。そういう自分の感覚を研ぎ澄ませながら飲むのって面白いですね。

『面白いものだと!』と思っていれば感じられるし、『コーヒーはコーヒーだから…』って思っていれば感じられないし。それだけの話で。結局大事なのは”物事を楽しもう、自分のものを感じようとするマインド”が大事。そうじゃないと海外に行ったとしても何も感じないです。小型の日本国として移動しているだけで。やっぱり旅は一人でするべきだと僕は思っているし、常に心を開いて現地のものをどんどん取り入れて感じないと意味がないよね。

コーヒーに関しても皆さん、これから飲むコーヒーもね、おいしいか不味いかのジャッジじゃない感覚で飲んでみると、美味しくはないんだけど面白いとか。美味しくはないけど、愛おしさも感じるみたいなのってあるんですよ。美味しい・美味しくないって本当に個人的な話で嗜好の世界なので、人と共有し合うことはすごい難しいんですよね。俺が一番美味しいと思うコーヒーを人によって一番まずいっていう可能性もあるし。はっきり言ってそんなことはどうでもいい!と言うか、一回置いておきましょう。”あなたが飲んだ時に、心がどう動きますか?”ってことはすごい重要なんですね。番付で上位に来ているものはそれなりの理由があって、それは理解した方が当たりを引ける可能性は高くなる。

―最後になりますが、泰三さんにとってバラ色の人生とはなんでしょうか?

なるほどねバラ色の人生ね。これは変態色の人生って言いかえても大体同じ意味になるかな。自分自身がワクワクするってことが何より自分にとって大事だと思って生きていて、やっぱりそういう感覚でワクワクしている人が増えてくるってことがすごい幸せなことだなって。変態人口増加したがいいんじゃないですかね。そういうユニークな人たち。あとは自分が生きているってことに自分で本当に喜びを見出してる人たちと一緒に、何か仕事ではなくて、何か繋がりを持って活動するってことは、自分にとって最高の幸せだなと感じます。バラ色の人生と違う?大丈夫?変態が増えてほしいっていう、そういう気持ちです。そのためには、明日香ちゃんはすごい重要な仕事してますからね。またゆっくり話しましょう。

MCプロフィール:
金井明日香
ソフトウェアメーカーの企画担当、新聞記者を経て、NewsPicksに入社。 平日は経済メディア編集者、週末はUNIQUES編集長。「変な人から学ぶ」というコンセプトで、記事配信やイベント企画を担当。変な人からパワーをもらいつつ、陽気な情報を発信しています。

UNIQUES
https://uniques-magazine.com

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