一般社団法人LIFE IS ROSEと西武池袋本店のコラボ企画『中東の歩き方。在住者がオススメするシリアと周辺国ツアー』オンライントークイベントより、シリア支援団体 Piece of Syria代表・中野貴行さんのインタビューをお送りします。MCは株式会社 アレッポの石鹸 共同代表・太田昌興さんが務めました。
中野:まずは皆さん、中東にどんなイメージを持たれていますか?
―太田:一般的に言ったら、怖いイメージですかね?
これを講演などで質問すると、だいたいは「戦争」「難民」「砂漠」「石油」が多いんですね。このイベントを通して、イメージがちょっとでも変わったらいいなと思います。まずは、よくシリアという国で聞かれる質問「危なくなかったですか?」について話していきます。
―必ず言われますけど、全然危なくなかったですね。2011年までに4回行ってるんですけど、危ない目に遭ったことは、1度もないです。中野さんはどうですか?
僕も2年ぐらい住んだ上で言わしてもらいますけど、めっちゃ安全でした。どれだけの確率で犯罪に遭うかという指標の「犯罪遭遇率」を調べたことがあるんですけど、それが日本の20倍安全だったんです。夜に出歩こうか何の危険もないし、ひったくりもないし、カフェとかに荷物置いて出て行っても盗られない。携帯忘れたら走って追いかけてくれました(笑)
―ほんまですか(笑)
あと面白かったのが、”道に迷わない”というのがシリアの”あるある”であるんですけど、何故かと言うとですね。その辺キョロキョロしてたら、人だかりができて『この日本人に、どうしてあげたらいいか?』という会議が20~30人で行われるんです(笑)
―めちゃめちゃ優しいですよね(笑)
ほんと優しいなぁっていうことがいっぱいあって。コロナが落ち着いて、いい状況になったら皆さんにも行ってほしい国だなと思います。
また、シリアの人たちの日常について知ってほしいなって思う話があって。シリアって昼14時に仕事が終わるんです。おそらく公務員の方々だと思うんですけど。朝8時ぐらいに始業して、昼14時に終業するんです。
―14時!早過ぎですよ!
そこから家族揃ってごはんを食べたり、昼寝したり、各々ゆっくりしたり。
―豊かな生活ですよね。食料もいいし、教育水準も高いし、ゆったりとした自分の時間を使うことができるという。
そうなんです。シリアの人に「豊かさって何?」っていう質問をされた方がいらっしゃって。日本だと「出世」「成長」「成功」とか、そういうことを言われるケースが多いんですって。シリアの人に聞いたら「家族との時間」「自由な時間」って言うそうです。
―じゃあ、ある意味シリアの人たちはそれを結構満喫してたんですね。素晴らしい話です。
「家族との時間」っていうのが、彼らにとっての豊かさであり、幸せだったんだなってすごく感じます。だから、今回のイベントテーマに即したかたちで言うと「行ってみないとわからない」んですよね。
―これはほんまに言えてますね。外から情報だけ見て聞いて、なんか分かったように思ってるのと、実際行ってみて感じることではやっぱり全然違いますよね。
僕のシリアでの活動の中であったエピソードを紹介したいなと思うんですけども、シリアで出会った12歳の少女と仲良くなって、「なんか夢あんの?」って聞いてみたんです。そしたら『あるよ!』と言うわけですよね。
―どんな夢ですか?
『お金持ちになりたい!』って(笑) なんか、ちょっと意外な感じだったんですけど(笑)「なんでお金持ちなの?」って聞いたら、『お金って天国に持って行けないでしょ?だから、生きてる間にどうやって使うかが大事』って。
―貯めるんじゃなくて、どう使うかが大事だと。
『私はそのお金を使って、子供たちの夢を叶える学校を作りたい。そこで育った子供たちが、また私みたいに、子供たちの夢を応援する。そういうきっかけになるような学校を作る為にお金が要るから、お医者さんを目指していて。お金持ちになって、そのお金をそういう学校づくりに使いたいと。
―なるほど!それって何年頃の話ですか?
2010年の話です。それで僕は「すごい!」と彼女を褒め尽くしてたんですけど、その子に言われたのが『違うんだよ。この夢が持てたのは、あなたのおかげなの。』って。
―そんなこと言われたら、涙でちゃいますね。
「僕、なんかしたかな?」って聞いたら『あなたがこの村で活動して、大人たちが変わる姿を見た。だから”動けば変わる”ってことが分かった。そしてあなたは私の夢を否定しなかった』って言われたんです。
夢を持つ事って馬鹿にされたり『できっこないよ!』『前も無理だったじゃん!』とか否定的な言葉を言われたりするじゃないですか。僕は、この子ならできると思ったから「できると思うよ!」って言ったんですけど、誰か1人でも「応援するよ!」って言うことで、気持ちが変わったりするんじゃないかなって。
―自信に繋がりますもんね。
夢が持てなかった子が、その夢が叶うかどうかは別としても、『努力してみようかな!』って思う”入口”に立てるように、夢を否定しないことが大事ですね。
そんな親切な人たちがいるシリアですけども、2011年3月〜シリアでは戦争が始まった為、現在は行くことができません。十年が経ちましたが、今もなお戦争は続いています。その間にシリアの平均寿命は20年縮み、就学率(子供たちが学校に行ける割合)が99%⇒6%にまで低下してしまいました。
たまたま旅行中のタイミングで戦争が始まった為に、そのまま難民になってしまい、色々な国を転々としている人もいます。【難民】って特別な人がなるのではなくて、普通に生きてた人たちがなっているんです。僕たちと全然変わらないような人たちがですよ。
そして、難民になった方々にも「あなたの夢はなんですか?」と質問させていただいていて、印象的なエピソードを紹介します。
一人目は『家族みんなでご飯を食べたい』と語った少年。
彼は隣国・ヨルダンにいたんですけど、両親はシリア、兄さんはドイツ、妹夫婦はサウジアラビアにいて、バラバラなんです。彼はこう続けたんですね。『僕が生きてる間に、家族みんなでご飯を食べるという夢は叶わない』と。
―それは切ないですね。。
当たり前って本当に奇跡なんだなって。日常の大切さを感じます。
二人目は『子供の夢を叶える学校を作るんだ』と語った当時26歳のお兄ちゃん。
この夢を聞いた時に僕ははっとしたんですが、さっきお話した12歳の少女と一緒なんですよ。いま彼女のいた地域はイスラム国に占拠されて、あの子が元気なのかどうかさえわからない状況ではあるんですけど、僕があの子の夢の続きを叶えるっていう思いが、Piece of Syriaでの活動の動機になっています。
いつかあの子に会いに行って「あなたのおかげで夢は持てたよ!」って言い返したい!
―それはやってほしいですね。その瞬間を僕も見たいです!
―最後にあなたにとってバラ色の人生とは?
大切な人を、大切にできる。当たり前のことを、当たり前に過ごせる。当たり前を、きちんと当たり前に感謝できることは、とってもバラ色だと思います。
“国際協力”って言うと、なんかとっても敷居が高い・意識が高い・特別な人たちが、特別なことをするってイメージだと思うんです。
僕は妻のことが大好きなんですけど(笑) そんな”大切な人を、大切にする”っていうことが、たまたま僕はシリアの人たちも”大切”だったんです。
だから、特別なことをするのではなくて、普通のことを普通にするって、バラ色じゃないですかね。
ゲストプロフィール:
中野貴行 シリア支援団体 Piece of Syria代表。
青年海外協力隊としてシリアの田舎に住み、中東・欧州10カ国のシリア人たちを訪ねた唯一の日本人。最も支援が入りにくいシリア国内の教育支援を、日本では「課題ではなく魅力を伝える」をテーマに、シリアの今と昔を伝える講演・写真展・イベントを実施。中東を中心に40ヵ国以上・5年間を、旅・留学・駐在員として過ごす。