【INTERVIEW】岩崎泰三 in池袋西武オンライントークイベント(MC:金井明日香)【前編】

一般社団法人LIFE IS ROSEと西武池袋本店のコラボ企画『あなたが知らないコーヒー、教えます。~味覚で楽しむ世界旅行~』オンライントークイベントより、コーヒージャーナリスト・岩崎泰三さんのインタビューをお送りします。MCは金井明日香さんが務めました。

―金井:まずは岩崎さんの自己紹介を簡単にお願いします。

岩崎:僕は「コーヒー屋」を一応やっているということでいいですかね…?コーヒーっていろんなジャンルがあって、現地に行ってコーヒーの買い付けをする人から、輸入輸出の業務をされる方。そして、それを国内で扱う商社さんから焙煎をするロースター、そして小売のお店、カフェバーでバリスタがあって。いろいろなポジションがあって全部コーヒー屋ってカテゴリーに入るんですけれども、僕はその全部を1本の線で通したいなというのが一つのコンセプト。

産地に行って豆を選んで、このポジションで僕はコーヒーの鑑定士の仕事をやっておりまして、CQIというアメリカの組織が認定している世界標準のコーヒー鑑定士をやっているんです。Qグレーダーと言うんですが、生豆を選んでどう淹れるかなど、専門家のポジションで企業さんに色々提案をしています。

あとは、もともと銀座で喫茶店をやっていたのがコーヒーの仕事の原点なので「抽出」が専門なんですね。これからコーヒーの商売をしたい方のお手伝いをしたり、最終的にどうやってコーヒー豆をおいしい液体にするかというところのアドバイスまでさせていただいてます。

要するに、僕は音楽に例えることが多いんですけれども、作曲家がいて、アレンジャーがいて、それを演奏するバンドがあって、使う楽器のメーカーさんもあって、演奏するホールやライブハウスがあって、レコーディングスタジオがあって、それを聴くためのメディアがあって、聴き手がいる。非常にコーヒーに近いなと思うんです。

僕はもともとプレイヤーなんですよね。最初は音楽を仕事にしてたんですけれども、その頃と今はほとんど変わってなくて、あくまでもプレイヤーでお客さんの目の前で何か楽しいことをやって喜んでもらいたいなっていうのが自分の中で軸なんですけど、それをやるためには膨大な人たちに助けてもらわなきゃいけないんですよ。その人たちの気持ちを理解するために、全部のルートを勉強したら全部自分でやれるようになっちゃったという結果なんですよね。この5、6年ぐらいはもう本当に自分でコーヒーの買い付けから最終的にお客さんに飲んでもらうまで全部のところに首突っ込みながら。面白いことをやらせてもらっているなって気がしますね。

―ご自分でも焙煎所も持っていらっしゃいますよね。

岩崎:そうそうそう。やっぱり自分でやらないと分からないんです。自分で焙煎所をやって全国の喫茶店カフェさんにある程度の規模で卸したりしている。基本的には僕はどこか同じ拠点にずっといるのではなくて、さまざまな場所、自分の会社ではない他の方たちとずっとつながりを持ちながら仕事しているというのは多いですね。

―焙煎所を持ちながらも、全国を回られてるんですね

これはさっきの音楽をやってていた話に繋がるんですけど、銀座で喫茶店のマスターを始めたのが27歳で、この頃は並行して大道芸人をやってたんですよ。大道芸と言っても色々あって、僕は楽器をやっていて。ちんどん屋の一種で、100曲ぐらいの曲のリストを巻物みたいに広げて「何でもリクエストしてください!」と。クラシックからジャズからドラえもんから。美空ひばりさんとかも振り付けつきで演奏しながらパフォーマンスするみたいなことをずっとやってたんです。

大道芸人時代は特に楽器を担いで日本全国いろんなところを回るという仕事をしてたんですよ。実際コーヒー屋をやってみて、毎日同じ店に行くのがもの凄く苦しくて…3年間頑張ったんですけど、ちょっとやっぱり限界が来ますよね。もう一回、楽器の代わりにコーヒーの機材をバックケースに見立てたトランクに詰め込んで旅芸人のように全国いろんな所に移動すると。自分からワクワクドキドキハッピーを運んでいくみたいなことをコーヒーでやったら面白いんじゃないかなと。そういうアイデアで始めたんですね。だからコーヒー屋って言っていいのかは一瞬躊躇する(笑)

―本当に広い意味での「コーヒー屋さん」ということですね

そういうあり方を認めてくださった寛容な方達のおかげで、今の僕があると思うんですね。『コイツにこういう事をやらせてみたら、面白いんじゃないの?今までなかった事が起こるかな?』って思ってくださった方達が周りにいて、それが繋がって繋がって…いま非常に面白いことになってるなという気がします。

―もう、こういう話を聞くと「変な人から学ぶメディア」としては、色々と深掘りしたくなります(笑)

金井さんは、変な人の分析が専門ですよね(笑)数年間で相当あったでしょう。僕がインタビューしたくなるね。でも逆インタビュー禁止です!って言われているんでね。何とか堪えますけど(笑)

―私が気になるのは、岩崎さんがどうやってコーヒーと出逢ったのか。是非聞かせていただきたいです。

それは、忘れもしない17歳のある朝。僕は高校が自宅から自転車で5分くらいの近所の高校に通っていまして。楽器をやっていたので、ブラスバンドに所属して幾つかやってたんですけれども。朝6時半くらいから学校に早く行って楽器の練習をして、朝練の時間が終わると家に帰ってきて、そこからコーヒーを淹れてたんですよ。ゴリゴリ豆を挽いて淹れる。1時間目が終わるまでに何とか潜り込んで。そんなことをやってた高校時代。

高校生の頃に一番よく行ったのは、近所のカルディコーヒーファームのマイルドカルディでね。連日ゴリゴリ挽いてコーヒー淹れるみたいなのを高校生の頃にやり始めたのが一番最初なんですけど。当時は特にマニアでもなかったし、友達が背伸びしてコーヒー飲んでたり、缶コーヒーとかオレンジジュースじゃなくてジョージア飲んでたらかっこいいみたいな。そういう友達の中でちょっと抜けたいというところで、自分でレギュラーコーヒーを淹れるみたいなことをやってたカッコつけの高校生だったんだけど。

その頃に衝撃の出会いがあったんです。吉祥寺の「もか」に標(しめぎ)さんっていうコーヒーの鬼と呼ばれていた伝説の職人さんがいて、私が高校生の頃はもうすでにお店の中の喫茶営業は終了していたので、焙煎して豆を販売するだけの営業だったんですけど、私の父親がたまたま仕事の関係で標さんと知り合いで、コーヒー好きみたいだからこのコーヒーでも飲んでみろって。「もか」の豆を買ってくれたんですよ。当時はカルディしか知らないくて、「もか」なんて知らないんですけど。でもやっぱり一応もらったから、ふーんって感じで、いつものようにドリッパーに入れてお湯を注いで。お湯が粉に当たったその瞬間にコーヒーがぶわって動き出したんです!それまではお湯差してもシーンって感じですよ。当たった瞬間にモコモコモコって感じで。電流が流れた感覚に近いですけど、その時の衝撃と恐怖感みたいなね。死んでいるもの、物体だと思ったのに生物だった。コーヒーって物じゃなく生きているんだ!それを身をもって感じた17歳のある朝ですよね。

そのときに、今まで飲んだことないようなコーヒーを飲む機会があって、これはただ事じゃない。私は音楽家を目指してた子供だったので、音楽は趣味ではなくて職業とする部分だったんですけど、やっぱり大事な趣味としてコーヒーがすごい自分の中の場所を占めるようになってきたってのは高校時代ですね。そこから時間とお小遣いを何とかやりくりして色々な店に行って、色々な職人さんのコーヒーを飲んでいったのが始まりで。大学生ぐらいになると、うちの家業の骨董屋を手伝うようになるんですけど、うちの家業の骨董屋は池袋西武さんでも度々催事をやらせていただいて、ずっとお世話になっているんですが、上の催事場で年に2回、大きいサイズでやってるんですけれども・その骨董屋の店番で。うちは行商スタイルのお店で全国の百貨店に売り歩く。僕は地方について地方の百貨店で何日か売り子をさせてもらっている間に、その街の喫茶店に行くみたいなことを結構、大学生の頃にやってたんです。

それこそ「美味しい」ってなんなんだろう。良い悪いでは判断できないものだということが、本当に体の中に染み付いちゃって。だから、こちらの方が高いってのが「美味しい」とか言いたいんですけど、僕も。わかりやすいから。でもどうしてもそうできない、なんだかわからない壁があるな…というのを感じ続けた学生時代だったなって気がしますね。

当時から僕はもう人生の中に”旅”っていうのは物凄く重要な場所を占めて、いろんな場所に自分から行って、いろんなところの空気を吸うことを、コーヒーとの出逢いと共にずっとやってきたんですよね。そういう影響もあって大人になっても定着して一つのお店ができずに旅芸人になっちゃったっていうのはある(笑)昔からそうだったなって気がします。

―コーヒーと音楽って一見違うものに思えますけど、結構共通点があるものなんですね。

そうですね。音楽もいろんな姿がありますからね。音楽ってひと括りにしちゃうのも逆に難しいのがあるけれども、音楽とコーヒーの共通点というと、やっぱり即興性とかライブ感というところですかね。即興性でいうと、音楽の中でジャズみたいなイメージがありますけど、私は音大でクラシックの勉強ずっとしてきましたけど、クラシック音楽も決められた楽譜通りに演奏する中でも、即興性とかその場の空気で作り出すライブ感も大いにあるんですよ。目の前にいる観衆に対して、もしくはそのマイクに対して、どういったものをその場で生み出すかというのがライブだと思う。これがね、コーヒーの抽出と全く同じですね。ここまで確信を持って僕は音大時代には感じてたわけではないんですけど、やっぱりね、音楽をずっと勉強してどういう風にすれば自分がやりたことが伝わるのか。人に喜んでもらえるのか、そういうことを考えながらずっと勉強していく中で、今コーヒー屋として活動している必要な能力、必要なマインドはかなり鍛えられたなって。

―美しければ良いものなのか?と言われると、そうではないのかもしれないですね。

そうだよね。ただ、美しければいいってものではないじゃない。コーヒーもね。私も今スペシャルティーコーヒーの鑑定士をやってますけど、ただただ美しいものが高い評価を得ることが多いんです。でも、スペシャルティーコーヒーで高いスコアを高値とって高値で売買されている=美味しいか?というとちょっと違うんですよね…

そういうところは変態専門家の(金井)明日香ちゃんに本当にインタビューしたくなっちゃうんだよね(笑)海外旅行に行っても大自然が広がって綺麗な景色を見ることだけじゃない。その国の町の人たちの営みがあって、今までの歴史があって、必ずしも美しいものこそが尊いってわけではないんですよね。

私が音楽をやっている中で、クラシック、ジャズは元々ロックバンドとか学生時代やったので、いい音楽って本当に人さまざま。人によっても違うし、同じ人間でも時間によって違う。季節によって違うし、その時に一緒にいる相手によって違う。やっぱり色々な要素で流動的に動いていく不思議な何かがあるんだろうなぁ人間には。っていうのはやっぱり音楽を勉強した時代に本当によく感じて、100%コーヒーにも当てはまります。

―コーヒーを極めること、音楽を極めること、根本は同じなのですね。

そうですね。恐らく明日香ちゃんが今まで出会った変態さんたちに全員に共通している根本の部分が何かあるんじゃないのかなと僕は思いますけど。何となく表面的なスキルとか知識とか経験というのはやはり違うんですけど、最終的な部分というのは横で全ジャンルと繋がっているんじゃないかなと。ちょっとね、熱くなり過ぎて…これで1時間終わっちゃいそうな勢いだね。

(続く)

ゲストプロフィール:
岩崎泰三(コーヒージャーナリスト)
西洋アンティーク専門の骨董品屋を営む父の影響で幼少期から“目利き”能力を養う。高校時代に飲んだ1杯のコーヒーに心奪われてから、独自で研究を始める。国立音楽大学器楽科に入学後、金管楽器を専攻しつつ卒業までに一通りの管打楽器を習得。大学卒業後、JAZZを中心にミュージシャンとして活動をしていたが、2007年に銀座で極上のドリップコーヒーと西洋アンティークをテーマにした喫茶店「時・・(Ji ten ten)」を開業(銀座6丁目再開発に伴い現在は閉店)。現在はコーヒーの専門家としてカフェプロデュースやコーヒー豆のプロデュースやコーヒー豆の買付/鑑定、焙煎、抽出、プロ向けのセミナー講師と幅広く活動中。

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